三味を引いた佐兵
佐兵は、とうしそこら中歩(あ)るってるうちに、あるところに三味ひいていだどこさぶっつかったど。碁女(ごぜ)だが何だか分かんないげんども、そいつ。
「あの三味、上手(じょん)だなあ」
と、みな感服して聞いっだんだど。
「あの三味、ええなあ」
と、そしたら佐兵そこで聞いでて
「おれもひかれる、三味」
というたど。
「なんだまず、おれひかれるなんて、佐兵は三味ひいたなんて、おれ聞いたことないなあ」
「ほだて、三味ぐらい、おれだってひかれべちゃえ」
「ほんじゃ、ひかれんなか」
「んだ、おれなど上手にひかれる」
「ほじゃらばひいてみせろ」
と、言わっだ。
「ほんじゃ、持って来てみろ、三味ひいて見せっから‥‥」
そして、まさか引きずっどは思わねがら、持って来たずだ。そしたら、その三味のサオさ縄つけで、
「ええか、ひくぞ、ええか、ひくぞ」
と、こう引っぱって、ガラガラ引っぱったど。引っぱられっど思わねもんだからよ、そして三味、みなぼじょごしてしまったど、んだげんど、誰も三味ぼっこした悪(わ)れどいわんねでしまったど。なんぼごしゃがっても佐兵引けといわれて引いだんだで、こいつだって「引く」のだべと、三味一丁ぼこさっでしまったど。