田植の名人(1)
あるとき、遊んでばかり歩くじだごでなぁ、気向き次第。
田植えしったとき、みんな田植えしったの見て、田の畔さ腰掛けてで、涙こぼしったて。
「なえだ。佐兵、泣いだりして」
「おれ、みんなの真似さんねもの」
「なにの真似、さんねごんだ」
「みんな、あがえ上手に曲げて、縄張っても曲げて田植えっどら。おれぁ縄張んねったって曲がんねも」
「なんだ、この野郎、人馬鹿にしたことばかり語って、そがえ上手に植えられっこんだら植えてみろ」
「ほんじゃ、おれ、植えてみっか」
「植えてみろ、まず」
みんな縄張って、うしろに下がって行くげんども、佐兵は縄も張んねで、真直ぐに、チョポチョポと植えて行く。そして早いし、一つも曲んねがったど。
田植だらば、そがえな上手な、なかったど。
一日手伝って、お振舞いにあずかって、そういう風な田植の名人だったって。何仕事でも名人だったど。
田植の名人(2)
四角い田さ、真中に、ちょぽっと入って、グルグルと丸く植えたど。そして植上げたとこ見ると、横縦十文字、全部が整うがったど。
「ずいぶん、佐兵さんが植えた田は、曲がんねもんだな」
「んだからよ、おれぁ泣いっだのよ」
と、佐兵がいうたど。
「秋さなって、曲んね(穂が曲らぬ、実が入らぬ)と思ってよ」