きのこの化け物
むかしとんとんあったんだけど。
ある村に古いお寺さまあって、そこには和尚さん一人だけ住んでいだんだけど。ところが夜な夜なそこさ化け物が出る。ほして化け物、夜おどり踊る。
♪月夜の晩は、ああ、カックリカ カックリカ
みな出て踊んべ カックリカ カックリカ
ああ、和尚さんはカックリカ
て。はいつ見っだ和尚さんが出はって行って、和尚も踊った。同じに手足動かして、カックリカ、カックリカて踊った。
どさ行くべと思って見っだ。ほうして明け方なったれば、すうすうと、みないねぐなた。
「畜生だ、どさ行くべ」て思って、和尚さま見っだれば、表のいちょうの木さ、ぴたぴた、ぴたぴた、みなふっついだ。ねつく見たれば、はいつはきのこだっけ。ほして薄ぼやっと光ってだ、月夜の晩に。
次の日もまたおどり踊った。
♪月夜の晩に、カックリカ カックリカ
みな出て踊んべ カックリカ カックリカ
ああ、和尚さんはカックリカ
て、同じ調子で踊った。ほして和尚は次の晩言うた。
「こりゃ、にさだ、明日から来っどきには、尻洗ってこい」
「はい」
ほして、ぴたぴた、ぴたぴたとまたいちょうの木さふっついてしまった。ほして次の晩、またのらりくらりと出はってきて、踊り始まったけど。
「こりゃ、こりゃ、尻洗ってきたか」
「はい洗ってきた」
チャポン。次から次へと鍋さお湯煮たてては待った。
「こりゃ、こりゃ、にさも尻洗ってきたか」
「はい洗ってきた」
チャポン。すぱっと(ぜんぶ)きのこ、尻洗ってきたきのこはみな和尚に食(か)っだけど。ほれからけっしてほの古寺さ化け物出ねがったどはぁ。
どんぴんからりん、すっからりん。
(名集「人食い菌」より)
現代文訳(ちょっとだけわかりやすく)
むかしとんとんあったんだけど。
ある村に古いお寺があって、そこには和尚さん一人だけ住んでいた。ところが夜な夜なそこに化け物が出る。そしてその化け物は、夜おどりを踊る。
♪月夜の晩は、ああ、カックリカ カックリカ
みな出て踊んべ カックリカ カックリカ
ああ、和尚さんはカックリカ
と。それを見た和尚さんは外に出て、一緒に踊った。同じように手足を動かして、カックリカ、カックリカと踊った。
どこに行くのかと思って見ていた。そして明け方になると、すうすうと、みんないなくなってしまった。
「畜生たちは、どこに行くのだろう」と思って、和尚さまが見ていると、表のいちょうの木に、ぴたぴた、ぴたぴた、全部くっついた。よくよく見ると、そいつらはきのこだった。そしてぼ~っと光っていた、月夜の晩に。
次の日もまたおどりを踊った。
♪月夜の晩に、カックリカ カックリカ
みな出て踊んべ カックリカ カックリカ
ああ、和尚さんはカックリカ
と、同じ調子で踊った。そして和尚は次の晩こう言った。
「こら、おまえたち、明日から来る時には、尻を洗ってこい」
「はい」
そして、ぴたぴた、ぴたぴたとまたいちょうの木にくっついてしまった。そして次の晩、またのらりくらりと出てきて、踊りが始まった。
「こらこら、尻は洗ってきたか」
「はい洗ってきた」
チャポン。次から次へと鍋にお湯を煮たてては待った。
「こらこら、おまえも尻を洗ってきたか」
「はい洗ってきた」
チャポン。全部のきのこ、尻を洗ってきたきのこは和尚さんに食べられてしまった。それからけっしてこの古寺に化け物は出なくなったそうだ。
どんぴんからりん、すっからりん。